皆さんこんにちは。
先日、あるお客様からこのような質問をいただきました。
「いつも使っているレシピ本には『干ししいたけ』って書いてるのに、この前購入した商品には『乾しいたけ』って書いてるんですが、何か違いはあるのでしょうか?」
とのこと。
たまーにいただくんですよね、この質問。あまり意識されたことがない方も多いかと思いますが、もし両者で特徴が異なるとしたら選ぶときにも気を使っちゃいますよね。
ということで、本日は小ネタ的ですがこの「表記ゆれ」問題を紐解いてみたいと思います。ちょっぴりややこしいですが、着いてきていただけると嬉しいです!
1.表記による違いはない!
まずいただいたご質問にお答えする形になりますが、「干ししいたけ」も「乾しいたけ」も同じもので、両者に違いはありません!
ではなぜこうした表記ゆれが出ているのでしょうか…?
上記以外にも「干し椎茸」「乾シイタケ」などなど、いろんな表記のパターンが見られます。
そこでここからは「ほし」の部分と「しいたけ」の部分に分けて解説していきます。
2.「干」「乾」どっちが正しい?
さて、まずは一つ目の疑問。
結論から申し上げますと、しいたけ業界では基本的に「乾」の字を使用しています。ちなみに、送り仮名は無しです。
でも正直、一般的には「干」の字で書かれていることの方が多いように感じませんか。事実、筆者がGoogle検索をかけてみたところ、その二つのヒット数にはなんと150万件近くの差が…。
※こんなに差があったとは。。。
ではなぜ、これほどまでに差があるにも関わらず、「乾」の漢字があてはめられているのでしょうか。
それには、乾しいたけがたどってきた歴史が関係しています。
1900年代初めまで、乾しいたけは生のしいたけをザルなどに入れて本当に天日干ししたり、火であぶるなどして造っていました。ですから、この時代は「干ししいたけ」というのが正しかったとも言えます。
当時は栽培技術がほとんど確立されておらず、自然に生えているモノを採取するか、栽培できても少量だったので、このやり方でも十分だったのだと思われます。
ですが、1800年代の終わりごろから徐々にしいたけ栽培の技術が向上してきました。すると、販売目的で多くのしいたけを栽培する生産者が出てきました。
その際、それまでのやり方だと沢山のしいたけを一度に乾燥させることが難しかったことや、品質の均質化が難しかったため、木炭や薪を使用した乾燥機を利用する乾燥方法に代わってきました。
極めつけは1970年代に石油乾燥機が登場したことです。これにより乾燥の時間が大幅に短縮され、品質の安定性も飛躍的に向上したため、以降現在まで乾椎茸は石油もしくは電気乾燥機による人工乾燥で製造されています。
したがって今は「干して」なくて「乾燥」させているので、業界的には「干」の字は使われなくなったんですね。
なお、本当は「乾燥しいたけ」と書いても良いのですが、古くからの「ほししいたけ」という呼び方が定着しているため、「乾しいたけ」で「ほししいたけ」と読ませているのだと思われます。
参考:乾しいたけの千年の歴史をひもとく(日本産・原木乾しいたけをすすめる会)
3.まだ揺れる!「椎茸」「しいたけ」「シイタケ」は?
さて、「ほし」の謎が解けたところで、次は「しいたけ」の部分が気になりますよね。
これまでの文章でお察しの方もおられるでしょうが、業界ではひらがな表記を中心に使用しています。ですから、業界的な表記は「乾しいたけ」が正しいということになります。
ひらがなである理由は諸説あるのですが、有力なのは「椎茸」という漢字の内、きのこを示す「茸」の字が常用漢字ではないため、商品名としての使用を控えたことから、というものです。よく考えてみると、スーパーに並んでいる他のきのこ類も「ぶなしめじ(樗湿地茸)」「えのきだけ(榎茸)」など平仮名表記のものが多いですよね。
ちなみにカタカナ表記については基本的に生物学的にしいたけを表すときに使います。当グループでは生産者さんへの種菌販売や栽培指導、各種研究並びにその発表なども行っていますが、この時にカタカナを使っていますよ。
※生産者さん向けの栽培マニュアルの一部。カタカナ表記しています。よく見ると樹種もカタカナですね。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。非常に多くのパターンがあって複雑でしたが、掘り下げてみると、乾しいたけが日本の伝統的な食品であることが背景にあったことが分かりましたね!
ただ、正直どの表記であっても誤用というわけではありませんし、私達も場面場面で適宜使い分けているくらいですので、深く気にされることはないかと思います。
ちなみに、当サイトでは多くの消費者の方にとってなじみのある「干ししいたけ」という表記を中心に使用していますよ!